「自由学園」ならではの「触れる、語る」美術教育
東京都東久留米市の私立自由学園(幼少中高大)で令和3年まで34年間、美術講師を務めました。自由学園はすべての教育組織「学部」で、1学年1クラス40名の学校です。自ら学ぶ力を育て、あたま、からだ、こころをバランスよく育てる特徴ある教育で有名です。ここでは、大正10年の創立当時から、土曜日に学園全体で美術の授業を行っています。
創立時には、版画家・山本 鼎氏を監修に招き、山本氏の提唱する自由画教育を実施、戦後は著名な彫刻家・佐藤忠良氏、日本画家・吉岡堅二氏、滝沢具幸氏らを招いて授業を行っていました。

平成に入り、講師だった私は、小学校の授業に美術館見学と作家作品の学内展示を組み入れることにしました。美術館見学では、私も説明役になって、1組10人程を作品の前に連れていきます。そこで車座になって説明すると、子供たちは、感じたままに質問、それに答えて、次の作品の鑑賞に移ります。数々の鑑賞を終えた児童は会議室に集まり、私が考えた問いかけに答える、1時間半ほどの授業です。この実践は、色々なものの見方があり、自分なりに表現方法を考え出し、そして発表することの大切さを感じてほしい、と私が望んだ結果、編み出した方法です。
もう一つ、作家作品の学内展示は、体育館にパネル設営をして特設美術館を作り、鑑賞会を行うものです。出品に協力してくれたのは、大学や大学院時代の恩師、先輩、同級生など10人余りにのぼります。油絵に実際に触れたり、金箔を貼った画面を至近距離で鑑賞したりします。木や石、鉄、銅でできた彫刻に触ったり、作家と直接、お話しする時間を作ったりして、美術館ではできないことをここでは実践できました。授業の感想を書いてある月曜日に読む生徒の日記が何よりも楽しかったです。

不思議なものに向き合う体験を
平成2年、故郷の静岡に拠点を移してからは地域の小学生を集め、小さな教室を開きました。子どもたちを連れて静岡県立美術館、静岡市美術館、ヴァンジ彫刻庭園美術館など、何度も足を運びました。ある時、4年生の児童が有名な草間彌生氏の展示作品に魅せられ、つい触ってしまいそうになり、注意され大泣きする出来事がありました。その彼女が、今では筑波大学学芸術専門学群の大学院で学んでいます。
自分たちの考えが及ばない不思議なものに向き合う体験、人の考え方を知ろうと努力すること。こうした体験を通して、豊かな気持ちを持った大人に育ってほしいと願うばかりです。そして指導者として私も子どもたちと勉強を続けています。
